妃芽ちゃんは私をじっと見つめていた。感情の読めない瞳。



「妃芽、行くわよ」




九条先輩に呼ばれると、妃芽ちゃんは無言のまま私から顔を背け、歩き出した。





「待ってよ、妃芽ちゃん…!」





私の言葉を遮断するように、ガチャン、と重いドアが閉まった。





残された、私とリュウとかいう男。






リュウは後退る私にゆっくりと、でも一歩一歩、確実に近づいてくる。





「えっと…あの…っわ、」





コツン、と私の足に何か当たった。




その勢いで後ろに尻もちをつく。



尻もちをついたのは乱雑に重ねられたマットの上だった。




「あ、あの、まずは…話し合いません!?」




リュウは私の言葉には何も反応することなく、尻もちをついた私をいやらしい目で見下ろすだけ。



無視か!?

こうなったら、誰か助け…!




幸いスマホは取り上げられていない。



私はポケットの中からスマホを取りだした…その瞬間、



ガシッとその手首がつかまれる。





「ルール違反ネ、これ」





リュウが私の手からスマホを取り上げ、放り投げる。





ルール違反はどっちだよ…!!





見上げた私はたぶん涙目になってたと思う。



舌なめずりをしたリュウが、私の肩をつかんで乱暴に、押し倒した―――