…っ、ずるい。
天王子を軽く睨みつけてみるけれど、天王子はどこか楽しそうに私を見返すだけ。
今、拘束も何もされてない状況。
逃げようと思えば逃げられる。退こうと思えば、すぐにだってベッドから降りることができる。
…でも。
“好きじゃない奴とキスはしないんだろ?”
今、私の好きな奴、というのは、紛れもなく目の前のコイツなわけで。
…私は今、私にある勇気を全部かき集めて、そっと目を閉じた。
「…っ、おまえ、ずるっ…」
天王子の余裕のない声が聞こえた、と思ったら少し乱暴に首筋に手を添えられる。
天王子の手は火傷するくらい熱いけど、きっと私の顔も同じくらい熱いんだろうな。
唇が重なるまで、あと、3センチ、2センチ、1センチ―――
―――唇が触れる直前、賑やかな電子音が空気を切り裂いた。
枕元にある天王子のスマホが着信を知らせている。
「…天王子…電話」
「…知るか」
再び唇を近づけようとする天王子に、
「ちょっと待って!」
なんとか抵抗して距離を取った。
「も、もう無理… 集中きれた」
「……チッ」
天王子は心底苛ついたように舌打ちをすると、上半身を起こしてスマホを取った。
画面を見た瞬間その顔が歪む。
「開人…絶対ぶっ殺す」
どうやら水川開人らしい。