「…はぁぁ…」



本日何度めかも分からないため息をついたとき、ガタ、と隣の席の椅子を引く音がした。


顔をあげると、机にカバンを置いた妃芽ちゃんの姿。




「おはよ」




いつも通り、ニッコリ笑って挨拶してくれる妃芽ちゃん。




「…おはよう」




私も精一杯いつも通りにしたつもりだけど…顔ひきつってなかったかな。




「…妃芽ちゃん、昨日はごめんね。突然帰っちゃって」



突然泣き出してカフェを飛び出してしまって、きっと妃芽ちゃんもびっくりしたはず。


謝ると、妃芽ちゃんはフルフル首を横に振った。



「ううん、それは大丈夫だけど…あの後…どうしたの?」


「どうしたって…?」


「玲と何かあったの?なんか玲、あれからずっとおかしくて」


「何かあった、って…」




もちろん何もない。


昨日のカフェ含め、天王子とはここ最近まともに口をきいていないし、昨日カフェから飛び出した後も会ってないし。



「何もないけど…?」



答えると、妃芽ちゃんがギュッと眉をひそめた。




「ほんとに?
だって玲、あの後一花ちゃんのこと…!」



そこで妃芽ちゃんは言葉をきって、言うか言うまいか、迷うように唇をかんで。




「……なんでもない」



フイッと私から顔を逸らして、前を向いた。