「玲!はい、メニュー!」
妃芽ちゃんが天王子にメニューを手渡した。
天王子が面倒くさそうにメニューを開く、と…
その目にキラッと光が宿ったのを私は見逃さなかった。絶対、“アレ”を頼「うわっ見て玲!ここ焼きそばパンあるよー!」
妃芽ちゃんが興奮した様子で言った。
「…おー」
頷く天王子は嬉しさを隠しきれていない。さっきまであんなに仏頂面だったくせに口角が僅かに上がっている。
「よかったね玲!」
妃芽ちゃんはニコニコ笑うと、その笑顔を今度は私に向けた。
「一花ちゃん知ってた?玲ってちょっと引くくらい焼きそばパンが好きなんだよー!」
「…おい、“引く”ってなんだよ」
「だってホントだもん、中学の時から尋常じゃなくらい焼きそばパンばっか食べてたじゃん」
「いいだろ別に」
仲良さげに会話をする二人になぜかイライラが募る。
知ってるし。私も知ってるもん。天王子が焼きそばパンを異常に好きなことくらい。
だけど
「…そうなんだ」
なんとか笑顔でそう言った。乾いた声しか出なかった。



