負けてくれればいいって…
じわじわ、体の中からピリピリとした何かがのぼってくるのが分かる。
私は天王子のことは好きじゃない。
あんな自己中猫かぶりわかがまま俺様プリンス野郎のことなんて好きでもなんでもない。
勝つ理由なんてない。だけど――
“私が負けたら、嫌がらせされてることを玲に言う”
負ける理由もないんじゃない?
グ、と自然に加速したのが分かった。
少し前を走っていた子の隣に並び、そのまま追い越す。
持久走なんて大嫌い。なのに、何でこんなに熱くなってるんだろ。
次々に追い越しながら、どこか他人事のようにそんなことを思う。
だけど妃芽ちゃんはまだ遠い。
天王子のことを追って、この学校に来た妃芽ちゃん。
昔何があったか知らないけど、そんな妃芽ちゃんを気にしまくりの天王子。
妃芽ちゃんの想いが届けばいい、と思ってるのは本当。応援したいと思ってるのも本当。
だけど―――
…私いま、天王子が妃芽ちゃんのことばっかり見てるのに、イライラしてる?



