ドン、とスタートの合図が鳴った。
みんな一斉に走り出す。
あまりやる気のない私はだいぶ後方からのスタートだ。
先頭から走り出した妃芽ちゃんが、早くもコーナーを曲がるのが見える。
チラ、と天王子を見ると、やっぱり険しい顔のまま、妃芽ちゃんの姿を目で追っていた。
…そんなに妃芽ちゃんのことが気になるの?
…ズン、と足が急に重たくなった気がした。まるで水の中を歩いているような感覚。
妃芽ちゃんの姿は人の隙間からでさえ見えない。もうだいぶ先をいっているらしい。
ノロノロと足を動かしながら、何でこんなにモヤモヤするんだろう、と思った。
天王子と関わらなくなって、本当は嬉しいはずなのに。
…イライラする理由なんて何もない。
モヤモヤする理由もない。
「イエーイ!」ってガッツポーズするところでしょ。三か月前の私なら絶対にしてた。
ほぼ私の反対側を走る妃芽ちゃんの姿が見える。だいぶ先、どころじゃない。一周目にして既に半周近く差がつこうとしている。
“じゃぁ、負けてくれればいい”
妃芽ちゃんの呆れたような物言いがふっと頭をよぎった。



