チッと天王子が口の中で舌打ちをした。



対峙するように、鋭い瞳を樹くんに向ける。




「別に好きじゃねーよ。しつけぇな」


「じゃぁ、何でここまで一花ちゃんに執着するのかな」


「…は?」


「好きじゃなければ別に、一花ちゃんが誰とどこに行こうが、どうだっていいでしょ?」


「…どうだっていい。でも」




天王子が忌々しそうに頬をひきつらせる。



「俺が気にくわない。こいつがお前のためにリップ塗り直してたり、はにかみあってたり、すっげームカつく。生意気なんだよ、たかだか村人Eが」


「なっ…」



思わず応戦しそうになった。


なぜ!?リップ塗り直しているだけで生意気なんて言われないといけない!?ていうか見てたわけ!?ファンの女子たちと楽しくご歓談中だったくせに!!




だけどそんな私を制するように、樹くんが少し前に出る。




「俺にはつまり“好き”だって聞こえるんだけど」


「…お前耳わりぃんじゃねーの。頭も」


「何でそこまで否定すんの?」




樹くんの静かな声に、天王子は不愉快そうに、今度はハッキリと舌打ちをした。



「くだんねーから。恋とか愛とか好きだとか、俺は信じない」


「…そっか。人の価値観に異議を唱えるつもりはないよ。でも、だったら一花ちゃんは俺がもらう」



樹くんがはっきり言い放つ。



「同じ土俵に立ちもしない奴が邪魔すんなよ」