「…足りなかった?」 黙ったままの俺を、心配そうに窺う妃芽。 俺はビニール袋の中からチョココロネを取りだして、妃芽に渡した。 「…玲?」 「好きだろ」 「…え…」 チョココロネは妃芽の大好物。 中学の時から、チョココロネばっかり食ってた。 「…ありがとう…!」 妃芽が満面の笑みでチョココロネを受け取る。 …久しぶりに見た。 妃芽の、笑顔。 「…じゃ」 妃芽に背を向けて歩き始めた。 …逃げてるわけじゃない。 逃げてねーよ。 ただ… 思い出したくない、だけだ。