やがてその街で、間に合わせのインスタントではあったがやっと一緒にスタジオに入れる仲間に巡り合い、気に入ったライヴハウスにも毎晩顔を出すようになる。ほんの少し、本当にほんの少しだが、描いていた自分の人生に近付いている気がして来ていた。
 俺は沢山の曲を書き、ロックミュージックで将来を生きて行くのだと信じていた。
 夢一杯に思い通りの事が今からやって来るのだと思い始めていた。

 しかし‥‥。

「シノブさん、何で俺達は右翼の街宣車に乗ってるんですかね?あんたがヴォーカル、俺はギター。その約束で俺はあんたの部屋に出入りしていたんじゃないですか」
「‥‥‥‥」
「シノブさん、俺がビートルズ、あんたがストーンズ。そんなのにいかれた二人が組んで何かやらかそうって話だったはずでしょ。どうして朝から晩まで軍歌聴かされてなきゃいけないんですかね?」
「すまない‥‥」
「ロックミュージックで一発当てよう、世間の連中に一泡食わせてやろうって‥」
「分かってるよっ!」

 俺にあてがわれた部屋をスタジオのようにして使い、単調なコード進行のリフに恋の苦しみや日頃のうっぷんをメロにして乗せ、短い歌に仕上げてばかりいた。入り浸りのライヴハウスでくる夜もくる夜もバーボンに浸かり、こうしていさえすれば華やかなスターダムの暮らしが遣ってくると信じていた。
 そう、俺達にもきっと何かが掴めると信じていたんだ。

「シノブ、お前とお前の若い衆、明日の街宣手伝いに出て来い」
「えっ、それはないんじゃないの、俺も奴も構成員でも何でもないじゃない」