「オフクロがさ、スナックの仕事持ってきたんだ。良い店だからどうだって、キチンとした良い店だからどうだって」
「で、どうすること‥」
「何で親子二代でスナックさ」
「でもお前もう二、三カ月遊んでんだろ、結構働き者だったくせに。錆びちゃったねえ」
「‥‥‥‥」

「剣のカードが正カードで中央に来ています‥‥‥。剣は男性の職業を表わす最も強いカード‥‥‥。要はこの仕事に選ばれた者、天職と言える訳‥‥‥。わかる?」
(何がわかる?だ、この女。当るって凄い噂だから来てみたのに、バーテンはいいんだよ、バーテンは。ロックシンガーの事とか何か言ってくれよ、たくっ。何がタロットだ‥)

「いや、急に男の子辞めちゃってさ、今一人でやってんだ。ホントは今からでも入って欲しいくらいだけど、準備もあるでしょう。明日二十四日、夕方五時に出て来てくれるかな」
(何だ、明日イヴなんじゃん)
「どう?都合悪いかな」
「あ・・はいっ。じゃあ明日から」

「おはようございます」
(???)
「この業界は夜でも挨拶はオハヨウなんだよ」
「あ、はい、オハヨウゴザイマス」
「このベスト使ってくれる、シャツはうんそれでいい、スラックスはこれをはいて。ネクタイこれをあげるよ。締め方、分かる?」
「いいえ」
「何だ、タイも結べないのか」
「すいません」
マスターは通常三種類あるネクタイの結び方の一番手の込む『ウインザー』を教えてくれた。その後十年以上俺はウインザ-以外の結び方を知らなかった。
「シノブ君、お客さんに聞かれたら十八歳ですって答えてくれよ。君を使うと営業停止くらっちゃうからね」