父は妾の子だったらしく、俺の祖母さんに当たるその母親と云うのは京都先斗町の芸者だったらしい。しかし幼い頃死に別れ、旦那だった祖父さんの処へ引き取られる。本妻には三人の子供がおり、末っ子としてその金持ちの家に認知されたらしい。が、それも本当かどうか分からない。ドラマチックに言う為の作り話だったのかも知れない。
 只、育った家は確かに立派な処で、大きな会社をやっていた。若い頃はまだ珍しかった自家用車を乗り回し、見た目もハンサムだったらしく相当もてたとか言う事だ。要は金持ちのボンボンで不良っぽくてイカしていたんだろう。
 そして母との若い結婚。二~三年後に喧嘩がもとで傷害事件を起こし懲役を受ける。


 出所後任侠の世界へ。転落の人生だ‥。
 あのまま自分の家を継いでいれば、伯父さんが社長、次男は亡くなっているので、父は専務にでもなっていただろうに。更に、社長の伯父さんには跡取りの男の子がおらず、亡くなった次男の処に一人だけ男がいて、その子が後を継ぐのだと葬儀の時に聞かされた。一族に男の子は俺と、五つほど年下の従兄弟に当たるその彼だけだったようだ。

 人生は不思議だ。

 父も最後は民族運動だけをやりたかったのだが、極道者で自分でも組を持っており、組織からは籍を抜いて貰えなかった様だ。政治結社の世界では本当に上層部を目指そうとすれば極道と掛け持ち何て云うのでは上っていけないと言うが、大親分が除籍してくれないと聞かされた事がある。
 右翼と云えど政治団体、極道者では真に相手にされない真面目さがある。
 葬儀に帰って遺言でもあり、
(世襲についての話になったら‥‥)
真剣にそれを悩んだが、
「生前から団体は自分の代だけで潰すと言っておりました」
その言葉のお陰で俺やまだ子供の弟達は普通の暮らしのままでいられた。
 極道者らしく自分が死んだ時の為に自分の墓を建てていたようだが、遺骨は一族の墓に入れてやって貰えるようお願いした。
 しかし、俺は実際の墓は何処にあるのかを知らない‥‥。

(どうせ誰かに殺されるのだろう)
本当にそう思っていたけど‥‥。
 死に様が人を物語ると言うじゃないか‥‥。

 運命の絡まる不思議な人生だ‥。

 親父も俺も‥‥。