「初めまして、君名前は?‥‥シノブ君?そう、宜しくね」
(別に普通の男だな、ヨカッタ‥‥)
夜十時から朝までやっていると言う。
(都会の店は営業時間が変ってるな)
簡単に説明を受け冷蔵庫の中を見たらカビだらけのサラミやチーズがあった。俺は元々スナックとは云え仕事の厳しい処にいたのでこれにはゾッとした。最初から嫌気がさしてしまった。
(汚くて参ったな‥ところでこのマスターどこがオカマなんだろう?)
暫くして最初の客が入って来た。
「おおママ!久しぶり」
(マ‥ママ?)
「あらーん、お久しぶりぶりーん」
(!!!???な、なんだ?おかまって皆女の格好してるんじゃないのかっ!)
俺は心からたまげた、瞬間にここでは出来ないと判断した。閉店後、
「いらない」
と言ったが、日払いだからどうしても払うと日当をくれた。多分気付いていたんだろうあのマスター、いや、あのママ。おれはそれきり出勤しなかった。

 東京を訪ねて見ようと国鉄に乗った。どうやって行けば良いのか全然分からず
(品川にさえ行けば環状線に乗り換えられる)
そう思って品川へ行った。駅でうどんを食おうとホームで店に入り、
「素うどん」
「かけの事?」
「‥‥?は、はい」
出てきたうどんのつゆを見てショックを受ける。
(何だ?コールタールみたいで真っ黒じゃないか。丼の底が見えないよ、気持ち悪う‥)



 ライヴハウスへ行きたかったのだが俺は『新宿ロフト』しか知らず、日本のロックシーンはそこから始まっていると信じていた。ここからなら山手線でどっち乗ってもいずれ着くだろう、新宿に。