俺は差し当って住込みで働ける仕事を捜しに夕暮れの伊勢佐木を歩いた‥。
「いらっしゃい」
宵の口のスナックにフリーで入った。一人いた女は見慣れぬ顔に少し驚いた様子。ギターケースだけを持っているので『流し』と思われたかも知れない。
「ビール下さい」
俺は仕事とネグラ捜しの事情を話し、彼女はやがて現れたママに取り次いでくれた。
「明日の夜もう一度いらっしゃい」
ママにそう言われた。
 次の日、再び訪ねると一軒募集している処があると情報が得られる。
「そこのマスター一人でやってるの。明日夜九時にここで待合せにしたからそのまま初出勤するといいわ」
「わあ、有り難うございます」
「ただね‥‥」
「はい、何ですか」
「その人‥‥オカマなのよ」
「えっ」
「大丈夫、店の子に手を出したりしないから」
「は‥‥はい」
「今夜は少し飲んで行きなさいよ、就職祝いよ」
「どうもすみません」
気に入って貰えたみたいだ。
(ところで何で九時に待合せなんだ?そんなに遅くからオープンするのか?一体どんな店なんだ?)
 何杯か飲むうち俺はうつらうつら眠くなってきた。するとその店の一人の女が俺に話しかけてきた
「ねえ、何処で寝てんの?」
「サウナ風呂にでも行って‥」
「うちに来ない?」
「えっ、でも俺お礼も出来ないし、金無いから」
「お金なんていらないよ」
「‥‥‥‥」
自分の上がりの時間まで待っていろと言われ、その店のソファにいた。随分待ったが、その子は結局ひいきの客が来たみたいで『アフター』に付き合う事になった様子だった。俺に申し訳なさそうに目配せしながら店を出て行ってしまった。
 俺はキョトンとした。
 あのままあの子の部屋へ転がり込んでいたら人生は大きく違っていただろう。