ある日運悪く、矛先が俺に向いた。
「大体お前も髪の毛チャラチャラ延ばしてないで、今直ぐ切ってこい」
(俺はロックシンガー、右翼の隊員張りに坊主頭できるか)
そう思うと何が何んでもここから逃走しなければならない、ここでは生きていけないんだと、髪を延ばす事こそポリシーでありそれが自分の誇りとさえ考えていた俺はその床屋から逃げ出した。走って‥
部屋に置いたままのギターを持って何処かへ逃げよう。そう思い懸命に走っていたが直ぐに感付かれ、でっかいアメ車が俺を追ってきた。
縦横無尽、必死の逃亡だ。しかし追跡するのは慣れているのか、そのアメ車を容易にまく事は出来ない。小路を入った角に身を潜め、やっと熱りが冷めた頃仕方なく駅へ向かい、取り合えず来た列車に乗りシートにぐったりと身体を沈めた。
車両は気味が悪いほどガラガラだった。
数日後、用意したワゴン車で深夜ゲリラ的に荷物の運び出し決行だ。
絶対に発見されてはならない。猛スピードで車に積み込み、直ぐにそこを立ち去った。
出掛けにキッチンのテーブルに一枚のメモがあるのに気が付いた。
『深く考えず気楽に連絡してくるといい』
それが父からの最後の言葉だ。
次に会った時には棺桶の中にいたのだから。
「東京まで、寝台、大人一枚」
「だめ!売らないで下さいっ」
「??‥‥」
「金を出してる俺が買うって言ってんだ、時間が無いんだ早くっ!」
『東京へ行く』と、大きな紙袋とギターを持って駅へ向かった俺を毎晩飲んでいたライヴハウスのママが止めに来ていた。トッポイばかりの俺は何仕出かすか分からない、不安定な少年に見えていたのだろう。
「ジーーーーーー」
発車のベルが俺を急かした、
「乗るんですか?乗らないんですか?」
「すいません、乗ります!」
ホームまで来て手を掴んで引き止めてくれた彼女を振り解き、俺はデッキに倒れ込むように列車に飛び乗った。静かにドアは閉まり、ガラス越しの彼女の唇が『げんきで』と言っている。俺にとって友達であり、姉の様な人だった。俺は大声で
「ありがとう」
と言った。
0時一分発、寝台特急、銀河一号はけたたましく街を遠ざけていった。
「大体お前も髪の毛チャラチャラ延ばしてないで、今直ぐ切ってこい」
(俺はロックシンガー、右翼の隊員張りに坊主頭できるか)
そう思うと何が何んでもここから逃走しなければならない、ここでは生きていけないんだと、髪を延ばす事こそポリシーでありそれが自分の誇りとさえ考えていた俺はその床屋から逃げ出した。走って‥
部屋に置いたままのギターを持って何処かへ逃げよう。そう思い懸命に走っていたが直ぐに感付かれ、でっかいアメ車が俺を追ってきた。
縦横無尽、必死の逃亡だ。しかし追跡するのは慣れているのか、そのアメ車を容易にまく事は出来ない。小路を入った角に身を潜め、やっと熱りが冷めた頃仕方なく駅へ向かい、取り合えず来た列車に乗りシートにぐったりと身体を沈めた。
車両は気味が悪いほどガラガラだった。
数日後、用意したワゴン車で深夜ゲリラ的に荷物の運び出し決行だ。
絶対に発見されてはならない。猛スピードで車に積み込み、直ぐにそこを立ち去った。
出掛けにキッチンのテーブルに一枚のメモがあるのに気が付いた。
『深く考えず気楽に連絡してくるといい』
それが父からの最後の言葉だ。
次に会った時には棺桶の中にいたのだから。
「東京まで、寝台、大人一枚」
「だめ!売らないで下さいっ」
「??‥‥」
「金を出してる俺が買うって言ってんだ、時間が無いんだ早くっ!」
『東京へ行く』と、大きな紙袋とギターを持って駅へ向かった俺を毎晩飲んでいたライヴハウスのママが止めに来ていた。トッポイばかりの俺は何仕出かすか分からない、不安定な少年に見えていたのだろう。
「ジーーーーーー」
発車のベルが俺を急かした、
「乗るんですか?乗らないんですか?」
「すいません、乗ります!」
ホームまで来て手を掴んで引き止めてくれた彼女を振り解き、俺はデッキに倒れ込むように列車に飛び乗った。静かにドアは閉まり、ガラス越しの彼女の唇が『げんきで』と言っている。俺にとって友達であり、姉の様な人だった。俺は大声で
「ありがとう」
と言った。
0時一分発、寝台特急、銀河一号はけたたましく街を遠ざけていった。
