プシュー
ドアが開く音がして私は電車を降りる。
私は綾瀬愛莉。いまは私が通う桜道学園へ登校している。そういえば今日は天気予報で晴れと言っていたなと思い手に持っていたスマホでカメラを立ち上げ空に向けてみる。晴れと言っていたのに空に薄い雲のような白いものがかかっていてあまり美しくはなく私は小さくため息をつき手を下ろした。特に今の生活には不満は持っていない。友達もいるし学校は楽しい。ただ一ついえばクラスメイトを見るたびに彼がいない寂しさを思い出すことだ。彼とは中学の頃からの付き合いで高校から別々の学校でプチ遠距離だったから別に不安になるとかそういうことはない。けどやっぱりクラスメイトの男子を見ると寂しいなとは感じる。とか思いながら歩いていると突然大きな声が聞こえた。
「愛莉ー!!おっはよー!」
私の友達の結奈だ。
「結奈おはよー!ごめん待ったー?」
「ううんぜーんぜん」
基本的にいい子なんだけど…
「愛莉のためならどれだけでも待つよ」
…ちょっとアニメキャラがかってるというかくさいセリフをしかもドヤ顔で言う。
まあこれでももう2年友達をやっている。
そして結奈や他の友達とバカやってそんなこんなで一日はいつも終わる。
あっという間に放課後。今日は部活がなくてのんびり帰れる日だ。
「愛莉、じゃあね〜」
「じゃあね〜」
最寄り駅までは友達と帰れるが私の帰り道には友達がいなくて一人だ。
電車に乗ろうとしたところで
プルルルル
ポッケの中のスマホからコール音が鳴り響いた。画面を確認すると
「美樹さん?!」
彼、七瀬光弘のお母さんの美樹さん。結婚したりしてるわけじゃないけどもう付き合って長いから仲良しさんで美樹さんと呼んでいる。
「はいもしもし」
「愛莉ちゃんっ?!大変!光弘がっ!…
「え…
カタン
「…ましたよ、…としましたよ、あの落としましたよ」
少し経ってから落としたスマホを拾ってくれた人が呼びかけていることに気づいた。
「あっすいません、ありがとうございます」
素早く言うと私はダッシュしだした。お金は私が払うから。そう言ってくれた美樹さんに甘えてタクシーに乗り込む。
「すいません……まで!急いでください」
私の急いでるのを感じてくれたのか随分とタクシーはいつもより早いけれどそれでももっと早く!と焦ってそわそわしてしまう。
「愛莉ちゃん!」
「美樹さん!」
「あっこれお金です。」
ばっと美樹さんが運転手さんにお金を払うと走ってそこに向かった。
「愛莉ちゃん。…さっきも電話で言ったけどね、…光弘が…倒れたの」
『倒れたの』
電話で言われた決定的なセリフと重なる。
「…はい」
「まだお医者様には呼ばれてないから、一緒に来てもらえるかな」
「はい…」
まだ焦る頭の中必死に声を絞り出して答えた。
「七瀬さん、どうぞ」
「はい、…ほら愛莉ちゃん」
「はい…」
ガラリとドアを開けると暖房がかかっているのか部屋は暖かいのに冷たい空気感が走った。
医者がゆっくりと言った。
「光弘くんはガンです。そして余命はあと三年だと思われます。」
「三年…」
余命宣告という自分の身近にはなかったものを突然言われ自然に呟いてしまう。
「治る方法はないんですか?!」
「治る可能性は正直言って薄いです…それから副作用は覚悟しておいてください」
「っ、はい…」
「なんで光弘が…」
そっと掠れた声で言うと涙が溢れてきそうになりギュッと唇を噛んで我慢する。
すると
「うぅ、うっ…」
としゃくりを上げて泣き出した美樹さん。ゆっくりとその背中を撫でる。
一度部屋を出て美樹さんは落ち着くと私の方を見て話しだした。
「ねえ、愛莉ちゃん」
「はい。なんですか?」
「愛莉ちゃんには、まだまだ時間がある。だからその時間を光弘のために使わなくてもいいのよ」
その言葉に私は目を見開きそしてクスッと笑ってしまった。笑う内容ではないのはわかっていた。けれど思ってもいないことを言われたことと安心したことから笑みが溢れてしまった。スゥッと軽く深呼吸をして
「私は自分の人生をかけてまでも彼と一緒にいたいです」
心を落ち着かせてから一気に言った。
「本当に?」
心配そうな顔で美樹さんが私を覗いてくる。
「えぇ、本当です」
私は先ほどまでの絞り出すような声とは違いしっかりと言うことができた。