ピキッと父の周りの空気が固まった。
それに気づかない母は話を続ける。

「交際していないのにそういう関係になるなんて決して褒められることじゃないけれど。まぁ男女のことだものね、何があるかはわかりませんもの」

父の眉間に、それはそれは深〜い皺が刻まれる。

「今は三ヶ月くらい?だとすると、予定日は……」
「違うから!」
「ち、違います!誤解です」

否定する三輪の顔は真っ赤だ。
この誤解は予想していなかった。

「香澄さんは妊娠なんてしていません!」
「本当か?」

父の確認する言葉に勢いよく首を振るあたしと三輪。

「本当です!」
「これは本当!」

なんてことを言うのだ。お母さん。

「香澄さんには指一本触れていません!」
「指一本は言い過ぎかも。でも歩いててぶつかったとか、物を渡して指を掠めたぐらいしかないよね、実際」
「そうです、本当に」

キスはおろか、手さえ繋いだことがないあたし達なのに。
今時、こんな清らかな男女が結婚ってことないわよ。

「そ、そうなの。ごめんなさい。早とちりして……」

どうやら誤解が解けたようで、母はすごすごと謝った。分かってくれたならいい。父はようやく肩で息を吐く。

「誤解なら良かった。しかし尚更解せないな、君が結婚を意識した理由が」
「それは僕からお話させてください。お義父さん」

改まって居住まいを正した三輪に、父も視線を三輪に向けた。