「娘さんを僕にください」

よくドラマとか小説とかで聞くこのセリフ。実際に聞くのは初めてだ。所謂、“結婚のご挨拶”なんて人生でそう何回も経験することはないだろう。頭を下げる三輪の横でそんなことを思っていた。

目の前には珍しく憮然とした表情の父と困惑気味の母がいる。

それもそうだ。朝いきなり電話で結婚宣言をして、午後には挨拶に来たのだから。何故って、出来るだけ早く結婚を進めたいっていうのもあったけど、何よりあたし達の休みが合致するのは三週間後で、しかもその日は共通の友人の結婚式が入っていた。今日を逃せば一ヶ月先になる所だったのだ。

「貴史くん。顔を上げてください」

ややあって父が言った。その言葉に三輪はゆっくりと顔を上げる。

「僕も家内も反対するつもりはないんだ。これでも娘のことは信頼しているつもりだし、美和が一度言い出したら聞かないことも知っているからね」

決して面白くはないがね、とやっぱり父は難しい顔をする。一人娘の結婚は男親からすると複雑なものらしい。

これが訳あり結婚ならば尚更。

「しかし、家内から聞く限り、君と美和は交際していないと聞く。恋人でもないのに結婚に踏み切ろうと思った理由を聞かせてほしいんだ」

まぁ想定内の質問だ。
それは三輪も同じらしく口を開こうとしたとき、何か合点がいったという表情の母に遮られた。

「……もしかして、美和ちゃん。赤ちゃんができちゃったとか?」