「おっせーなてめぇ!早くしろ、遅刻!」

玄関を開けると兄の自転車を自分の横に停めて腕を組み、仁王立ちで待っている涼香の姿。

…昭和の体育教師か。
いやそんなことより口悪すぎだろ、てめぇって言われちゃったよ。
いよいよだなぁおい。

自分の中でツッコミながら涼香の方へ向かい、自転車の後ろにドスンとためらいなく腰掛けた。

すると横から涼香の「は?」という声。

「ん、なに?」
「いや、なに?じゃないでしょ、普通七瀬が前じゃね」
何で?ととぼけてみると、
「男でしょ、何でこんなでっかい男後ろに乗せて女の私が漕がないといけないんだよ」
当然のことを言っている気の涼香に、俺も構わず食い気味に返す。
「だって急いでんのは涼香じゃん、俺別に遅刻したっていいし。で、誰が女だって?どこ?」
「なっ…!?目の前に可愛い女の子がいんだろ!一緒に行くんだからいいじゃん、ね!」
「はぁ~?俺にはブスゴリラが暴れてるようにしか見えないけどな」
反抗的な涼香を前に、当たり前にように可愛いと思いながら、素直になれない俺はまた悪く言ってしまう。こんな茶番じみた会話ですら愛おしいけど、小学生みたいな行動を取っている自覚はまあまあある。
まだブーブー言っている涼香の横で一つため息をついて、

「…ったく、早く後ろ乗れよ。その代わり、間に合わなくても文句言うなよ」

なんだかんだ言って涼香のわがままを聞いてしまうのもいつものこと。
待ってましたと言わんばかりにパッと表情が戻った。
遅刻を気にしている涼香のため、久しぶりに自転車を力いっぱい漕いだ。
そして運動不足であることを身をもって実感。
「おま、重い…」
「な、うっせぇ!」
なんて、かわいげのないやつ。