憂いを多少含んだ笑みで去っていく和寛に軽く手を振りながら、梨々香は何かをやり遂げたような満足感に包まれていた。

 思わず叱るような口調になってしまったのは自分でも予想外だったけれど、一件落着のようで良かった。
 まぁ、愛羅から和寛がどうのこうのと相談されたときには、既に和寛がどうのこうのした理由は目に見えていたから。

 愛羅はただの鈍ちんだから、全く気づいていないのだろうけれど。

 伊達にあの子の変な虫除けしてないから、と私が言って、それから諭したことについて、あいつは違和感を感じなかったんだろうか。
 “変な虫除け”をやっていた私が、和寛の恋心を応援している。
 それはあいつなら、愛羅を任せられると感じたから。
 もうそろそろ、親離れならぬ愛羅離れをしないと。

「………………上手くやって頂戴よ?和寛」

 もしこれが成立したならば、愛羅が妹なら、その相手である和寛は弟だ。
 中学生の頃の彼ならば、弟と思っても違和感はなかっただろう。

 高校で再会したときには既に、立派に大きくなっていた。

「和寛…………私の弟になれるよう、精々頑張ること」

 ぼそっと呟く。

 和寛の姿が、角を曲がったことで消えたのを見て、梨々香は一人にこにこと控えめに笑って、靄がかかった胸元で、ぎゅっと拳を握りしめていた。