「………これで全員か?」

「全員だよ」

「よし、じゃあとりあえずみんな曖昧な部分は何処かにあると思うから、今日は台本を持って台詞、動作の確認していこうか。きちんと演技してね、特にりっちゃんと和な」

「えっ」

 冗談冗談、と笑う逸樹の言葉に反応したのは、名指しされた二人のうち、一人。

 愛羅の隣、梨々香だけ。

 和寛は明後日の方向を向いてぼーっとしていたらしく、ねぇ、と隣の子に肘で小突かれてやっと気付くに至った。
 それから台本を取りに行く時間が与えられて、鞄のところに向かう途中、愛羅が口を開いた。

「……………やっぱり、よほどのことがあったのかな」

「………そうみたいね……………うん、私聞いてみるわ」

 神妙に頷いた梨々香の様子に、やはり愛羅は信頼を寄せることができた。
 やっぱり。愛羅はなんとなく、

「………お姉ちゃん…」

 小さく、そう呟いた。

「え?私愛羅のお姉ちゃんじゃ、ないわよ?」

「うん、でもやっぱり梨々香は私のお姉ちゃんみたいな存在だな、って」

 そう言ってえへへと笑った愛羅に、一瞬きょとん、とした梨々香はにこっと笑って、自分よりも背の高い愛羅の頭を、くしゃくしゃっと撫でた。

「なら精々妹ぶってなさい、愛羅」

「はぁい、お姉ちゃんっ!」

「おーいそこの姉妹!レズ!早くしなさーい!!」

「どっちでもありません!!でも今ちょうどその話をしてたんですぅ!!」

 声をかけてきた弥生にそう叫んで、台本を手にした仲良し姉妹は慌ただしく舞台の方へと駆けていく。
 その姿を眺める和寛も先程と比べると大分穏やかな表情をしていたように思えた。