しかし、大丈夫心配しないでと言われて余計に心配してしまうのが愛羅なのだった。
 講堂を入って、先に来ていた梨々香の姿を見つけると、まっすぐそちらの方へと向かっていく。

「……………梨々香ぁ、」

「あ、愛羅。やっほー」

「やっほー。あのさ〜……」

 そうやって切り出して、愛羅は今日の席替えのこと、愛羅の机の位置と、和寛の席が愛羅の席の後ろだということ、愛羅の隣がちづるだったということ、和寛の隣が拓真だったこと、和寛と拓真の間に流れる空気が邪険なこと、すべて一気に話した。

「…………あらま」

「でね、和寛と拓真くんの間に何があったのか、探りを入れてほしいの」

 そう言って、愛羅はものすごく真剣な表情をする。
 梨々香はその愛羅の顔を見てふぅ、と一息を吐くと、さっと座っていた席から立ち上がる。

「……私が落ち込んでたら、どんな事情であれ受け止めるから話せくらい言うでしょ。なんだかんだ言って、愛羅って和寛思いよね」

「そんなんじゃなくて」

「分かった分かった、聞いといたげるから舞台行くわよ、ほら逸樹先輩が集合かけてる」

 梨々香は舞台の方を指差し、それで「あ」と声を洩らし、鞄を梨々香の隣に置いた愛羅と共に、舞台の方へと歩いていく。

 和寛はといったら、鞄を愛羅たちの隣に置けば愛羅に質問攻めされると思ってか、愛羅と梨々香が鞄を置いた席のうんと向こうの列に鞄を置いているようだった。
 そして舞台へと向かう通路の途中で声をかけられた亜子と共に笑顔で舞台の方へと歩いていく。
 それを横目で見ながら、愛羅はなお、和寛が心配でならなかった。