翌日。
 はなぶし先生が転校生が来ると言った当日である。

 昨日、愛羅はあれから講堂に焦ってどたばたと入っていって、時間の許す限り、年に二回ある学校の祭りの内、春に開催される方___通称春祭の発表の原作小説を書いた。

 中世ヨーロッパの街中での恋物語。
 その物語を元に逸樹と弥生が台本、脚本を書くということになっているのである。

 逸樹と弥生は愛羅の才能を見込んで物語を書くことを頼んでいて、秋祭___この前終わったばかりの方の祭りでもよく期待に応え、皆の絶賛を得た。
 以来みんなが愛羅の書く物語の演劇発表を楽しみにしているのだ。

 更にこの秋祭では愛羅は主役を張り、その高度な演技や集まった観客の数に、演劇部全員が愛羅に一目措いている。

 教室は朝からどこか騒がしく、すこし浮き足立ったような雰囲気に包まれていた。
 そんな中、愛羅は大好きな本も読まずに頬杖をついて、ぼーっと隣を見つめていた。

(………………あほらし………でも、それにしても………………)

 クラスの人数の関係により、一人飛び出た席だった愛羅の席の隣に置かれていたのは、もう一式の机と椅子。
 今は誰も座っていないその椅子は____

「あーれ、愛羅ちゃんの席の隣に転校生が来るんだねー」

「…………みたいね」

 夏哉が愛羅に話しかけてくる。
 愛羅は話を適当に流すモードへと突入した。

 夏哉は気にすることもなくぺラペラと続ける。

「愛羅ちゃんの隣かー、どんな子だろ」

「…………………さぁ?」

「俺、その子と仲良くなれるかなー、冷たい子だったらどーしよー」

「………………どうしようね」