『………中学時代の話、愛羅に聞いたんだって?梨々香に聞いた………愛羅、私が燦ヶ丘に落ちたことの責任を、自分で無理矢理背負っちゃってるんだ。あのときはさ、私の勉強不足だったと思ってる。私のレベルだと“頑張れば”受かれるぐらいだったけど、普通の受験勉強しかしてなかったから。だから…………そういうことを、愛羅に遠回しにでも諭してほしいんだ____』

 リフレインしてくる、哀しみ、憂いを含んだ咲乃の声。

『多分、あの子家庭の事情のせいで、大人だとか、周りの人だとかに頼るだとか、少しは丸投げしちゃうだとかっていうことを…………しないというより、知らないんだと思う。梨々香から色々聞いてて、和寛なら、何とかできると思うんだ。何で私も梨々香も口を揃えてそんなこと言うか、分かる?』

 かぶりを振った和寛に、咲乃は続けた。

『……あんたが、あの子と気の合った初めての男子だから。あの子ね……本人はお父さん大好きっ子だから気づいてないんだろうけど……、包丁向けられた記憶から男子に半ばトラウマがあるようなもので、ずっと『なんか怖いから』って言って、ずっと男子に近寄ろうともしなかったの。なのに和寛はするりとその壁を通り抜けた。もしかしたら、中学時代の小さくて可愛い男の子のイメージが功を奏したのかもしれない。だから、どうか同性でそのトラウマには触れられない私達の代わりに、愛羅の心の奥の闇を、解いてあげてほしい』