__………愛って、恋って、なんなんだろうね。

 ぽつり。和寛に問いかける形で溢された愛羅の言葉は、酷く和寛の心を打った。

「……ねぇ、どうして人の心って、こんなにも曖昧で、理屈で説明できないことなんだろうね」

 憂いを多分に含んだ声で、ぽつりぽつりと愛羅は言う。

 梨々香が「用事があるから、私先に帰るね」と言って早歩きで行ってしまって、二人きりの帰り道でのこと。

「……『愛羅』ってね、あんな親が『多少複雑でも、ドラマチックな“愛”に出会えるように』って付けたんだって。でも…………“愛”っていうものがよく分かってない私にそんなのつけられたって、重荷になったりするだけなのに」

 鞄の肩紐をぎゅっと握りしめて俯きがちに言う彼女の表情は、周りの闇に紛れて見えない。
 和寛も自分の表情が見えないことを良いことに下唇を噛み、目を游がせる。

「……………………きっと、そのうち分かるよ」

「………え……………?」

「……これから先、それが理解できるようになれる機会はきっと何度でもあるから。大丈夫」

 何と答えたら良いのか。
 何を言ったら愛羅の気持ちが楽になるのか。

 よく分からないまま口にした言葉は、愛羅に届いているのかはよく分からなかった。
 でも、肩紐が握り直された辺り、何か思うところもあったのだろうか。

「………………ありがとう、和寛」

 少しの間の沈黙、そして聞こえてきた、ほわりと柔らかい声。
 続けて聞こえてきた「………えへへ」という可愛らしい笑い声に、和寛の表情も緩む。