「……いただきまぁす…………ん~、美味しいっ」

「あぁ〜、幸せぇ」

「…………美味しいぃ~。亜子さん、ありがと、持ってきてくれて。あと、料理部の子に頼んでくれて」

「どういたしまして。喜んでくれて、嬉しいな」

 そう言って、幸せそうな緩み顔の三人を順繰りに見つめて、亜子は笑顔を溢す。
 特に緩んだ表情をしていた愛羅を再び見つめて、今度は亜子から口を開いた。

「___……愛羅ちゃんさ、お母さんと一緒にお菓子、作ったことある?」

 亜子が口にしたお母さんの話題は、お祖父ちゃんお祖母ちゃんとの生活の記憶しかあまり無い愛羅にとって、タブーだ。
 すぅ、と幸せそうな表情が音もなく愛羅から消え失せる前に、和寛が取り繕うように口を開いた。

「愛羅は料理上手いよ、調理実習でしか見たことないけど。僕全然料理できないからさ、羨ましい」

 言って、ははっと笑う。

 横から、愛羅がすがるような瞳で和寛を見上げてくる。
 ふぅん、と頷いた亜子の表情が和寛を疑っているようではなかったので、和寛は小さく亜子に気づかれないようにほっと溜め息を吐いた。

「よし、じゃあ食べ終わったから練習再開しますか!!」

「そうだね、じゃあさっきの続きからやろっか」

「ねぇ、あたしもやっていい?」

「もっちろん。ほら、早く早く!!」

 そう言って、慌ただしく四人が講堂へと消えていく。
 時刻は五時半過ぎ、だんだんと陽が短くなっていく今日日、辺りはオレンジ色と藍色が共存していた。