「……………私さ、中学の頃、和寛なんてものすごく遠い人だって思ってた。だって明るいし、ちっさいし可愛かったし、何気に皆に人気だったし」

「え?なんで急に中学の頃の話なんてすんの」

「なんかね。和寛の笑顔見てたら、中二の頃のこと思い出してさ」

 そう言って愛羅はふわっと笑う。それに和寛はまた、ははっと笑って返してから、一つ息を吐いて、憂いを帯びた微笑みを浮かべると、ポツリと呟いた。

「…………………ずっとこんな毎日が続くと良いな」

「え?何?」

「………何でもないよ」

 ずっと愛羅に話しかけようとする夏哉達の一団。
 その行動を見て、クラスの女子が嫌な顔をするのは見たことがある。
 和寛の知る限り、愛羅に中学時代のイジメのような深刻な事態は起きていないように見えた。

 それでも、時間の問題のような。
 もし、この静けさが和寛という愛羅の昔からの知り合いがいきなり現れたことにより、一時休止していただけなのだとしたら。

(………嵐の前の静けさ、じゃないといいな)

 もし、そういうことが始まっても一応は男子である自分が、睨みを効かせることができるのではないか。

 男子相手であれ、女子相手であれ、自分がずっと隣にいればある程度阻止することは可能のように思えた。