「あぁいらちゃぁあん」

「何?」

「………………え」

 いつものように愛羅に話しかけてきた夏哉は、愛羅の返答がすぐに返ってきたことに対して、目をぱちくりとさせて愛羅の方へと向き直った。
 当の愛羅は涼しげな顔をしている。

「…………何、どうかした?」

「い、いや、別に…………なんか愛羅ちゃん、変わったな、って」

 別にじゃないかも、しれないけど、と夏哉は小さく付け加える。

 愛羅はといえば、キョトンとして「………そうかなぁ」とポツリと溢していた。

「………愛羅ちゃん、和寛のことどう思ってる?」

「え?何で?」

 更にキョトンとして、頭の上にハテナが沢山浮かんだ愛羅に「やっぱ何でもないや気にしないで」と言って誤魔化して愛羅の席から去っていく。

「…………………………何なんだろ」

 のそりのそりと、窓際で屯っている友達の塊の方へと吸い寄せられていく夏哉の後ろ姿を見送る。
 心の奥に巣食った、愛羅にはよく分からない感情を覚えた愛羅は、少しだけ考え込んでから、手元の本へと再び視線を落とす。

 するとまたすぐに教室に戻ってきた和寛から「愛羅~」と声がかかった。