「………………愛羅、」

「………………………何」

「………僕、梨々香から、愛羅の家の事情、聞いた。怒らないであげて。僕はただ、愛羅が奥に抱え込んだままにしておく必要はないって、思っただけだから」

 立ち止まり、俯いた愛羅の表情は長い艶やかな髪に隠れて見えない。
 和寛も愛羅に合わせて立ち止まり振り返るも、直視できないまま、愛羅の足元辺りのアスファルトに視線を落としていた。

「…………だから、僕の前では抱え込まなくていい。思いっきり泣いちゃってもいいし、悲しくなったらいくらでも話聞いてあげるし、ずっと隣にいてあげる」

「………………………和寛………」

 ぽた、とひとつ落ちた雫を拭って、愛羅は茜色の中、哀しみを多分に含んだ笑みを浮かべた。
 梨々香は傍観者の気分で腕を組み、それを眺めて微笑んでいた。

「…………ありがと。今更だけど、和寛が転入してきたのが私のクラスで………、ホントに、良かった」

 ……不謹慎ながら、愛羅の濡れた睫毛に思わずどきりとしてしまう。
 和寛は、赤くなってしまった顔を誤魔化すように、努めて明るい声を作った。

「____さ、帰ろっ?」