「__………おーい?和くん、聞こえてる?」
「え!?え、あ、はい」
弥生の声にはっ、と我に返った和寛は、脊髄反射で返事をする。
しかしながら、その頭上にはクエスチョンマークが沢山浮かんでおり、はいという返事も弥生にとって信用できるものではなかった。
「……あー、やっぱ和くん聞こえてなかったでしょ。あのね、これから十二月入るか入らないか位まで台詞暗記または自主練のターンだから、もう解散、って。あと、りっちゃんが般若みたいな形相でこっち見てるよ?」
そう言って笑って、弥生は観客席の方を指差す。
素直に和寛がその先を見てみると、そこで細めると三白眼のようになる梨々香が目を細め、こちらをわざとらしく睨み付けていた。
ついでに言い足しておくと、弥生の言う『りっちゃん』は梨々香のことだ。
愛羅はというと鞄を漁っていて、こちらを向いていない。
いや、わざとだな、多分。
「うわ、梨々香こわっ」
「でしょー、って和くんとりっちゃんって中学一緒だったんだっけ、愛ちゃんも。りっちゃんね、怒ると怖いから。愛ちゃんは怒っててもあんまり怖くないけど」
笑って言って、弥生は和寛の背中をポンと押した。
前につんのめって転びかけた和寛を更に押すように、後ろから弥生の笑い声がころころと転がってくる。
転ばなかったことに安堵し、息をつきながら客席の方をちらと見れば、梨々香の醸す恐ろしい雰囲気に愛羅まで加勢していた。
