「………………和寛」

「ん~……………?あ、り、梨々香」

 先ほどの壮大な愛羅の話の登場人物にいきなりばったりと会ってしまったせいで、和寛は気まずさに思いっきり目を游がせてしまった。
 梨々香はそんな和寛の様子を見て、「どうしかした?」と首を傾げた。

「い、いや……………………………、さっき、愛羅に、中三の頃のこと、聞いた」

「………………そう、なの」

 言ってから、梨々香はふと栗色の瞳に深い哀しみの色を落とした。
 そしてつと目を伏せると、和寛をまっすぐに見つめて、悲しげに微笑んで見せた。

「……………和寛さ、愛羅のこと、好きでしょ」

「えっ?え、あ、う、うん…………まぁ……………」

「………あの子の心の奥の闇は、あの頃のイジメだけじゃない………………。あともう一つ。そのお話、聞きたい?」

 聞いて、和寛は狼狽えた。
 中学の頃からの憧れの人の、心の奥の闇を覗くことのできる状況下。それを聞くことが、自分の得になるのか、彼女の得になるのか……………。

「………あの子、私と咲乃、その他数人の中学時代の部活仲間と演劇部の子達……ホントに限られた人しか、心を開いたこと、なかったのよ。男子なんて尚更……………それでも、あそこまで和寛は愛羅と親しくなれた。ねぇ、私じゃ取り除いてあげられないあの子の心の奥の闇を、和寛が取り除いてくれないかしら? ……親友の私でも、できないことを」