「………ねぇ、邪魔なんだけど」

「あ~!ごめんごめん!」

 愛羅の威圧に、机に軽く腰かけていた夏哉は全く気にする様子もなく、笑顔で去っていく。
 愛羅はそれを仏頂面で見送ってから、はあぁ、と深い溜め息を吐いた。

「ほーれ、はよう座れ。連絡事項がある」

 がらがらとドアを開けて入ってきた、ここ1ーAの担任、英貴裕(はなぶさたかひろ)先生____日本史担当が故に渾名は“はなぶし(武士)”である____が、少し間の抜けた声を上げた。
 その声を聞いて生徒たちは慌てて席に座った。

「連絡事項は、ただ一つ」

 そう言って一旦切り、はなぶし先生は指を一本立てた。
 そして教室を見回すと、大きく息を吸って、続けた。

「____明日、転校生が来ることになった」

 その言葉を聞いて、一気に教室内が騒がしくなる。
 それをBGMにぼーっとしながら、愛羅はへぇそうなんだ、ぐらいの感想しか持たなかった。

いや、持てなかった。

 “この教室内”での友好関係について絶対零度よりも冷えきった愛羅にとって、転校生なるものは隣の高校で一位の子が実ははなぶし先生の甥だったとかいう話と同程度の興味しかなかったのだ。

「じゃあ、終わる。挨拶」

 先生の声を聞いて「起立」と号令がかかった。

愛羅は脊髄反射で立ち上がる。

「さようなら」という声をぼそぼそと復唱すると、愛羅は鞄を引っ付かんで廊下に出、左に曲がって校舎端の階段をまっしぐらに目指した。

 目線は常に斜め下。
 他の部活や部活をやっていない人たちの中を逆流しなくてはいけないし、そういう人たちとあまり目を合わせたくないのだ。