「い…………………………ッ!?」

 思わず叫びそうになっている和寛を愛羅は目顔で制する。

 はっと我に返った和寛は小さく「……ごめん」と溢してから再びまじまじと愛羅の個表を眺め始める。

「い、いやぁ~………………ここの高校入ったってだけでもこの地域じゃあ結構頭良いのに、その中でも上の方なんだね、愛羅さん」

「『愛羅』ね」

「…………ぷっ、い、いや、ごめん」

 ごめんと謝っておきながら、和寛は続けざまにくすくすと笑い出す。
 目をぱちくりとさせている愛羅を他所に、和寛は深呼吸をして笑いを押し込め、少し憂いを帯びた微笑みを浮かべた。

「折角1位なのに、嬉しくないの?」

「………望んでとったものじゃない」

 愛羅の瞳が、深刻なものを訴えていた。
 おそらく、愛羅ほどの秀才だと、いい結果でも嫌な思い出でもあるのだろう。

 頑張って話を変えようと、和寛はなるべく明るい声色で口を開いた。

「……さっき笑ったとこの話なんだけど。愛羅ってさ、中学の頃、逸樹先輩たちが呼んでるみたいに『愛ちゃん』なんて呼ばれてなかったよね。『愛羅』なんてもっと呼ばれてなかったよね」

「………『ささっちゃん』。佐々木ちゃんから木が言いにくいからってだんだんちっちゃい“つ”に変わってって」

 淡々と言う愛羅の瞳の奥に、暗い闇のように凝ったものが見えた。
 はっと和寛が息を呑んだそのとき、愛羅の瞳がだんだんと潤んでいきそのうちにぽたりと澄んだ雫が零れ落ちた。

 しまった。かえって地雷を踏んでしまったようだ。