梨々香は愛羅と和寛の後ろについて歩きながら口元を押さえて笑いを堪えていた。
 愛羅の鈍感度と和寛の誤魔化し方が、梨々香にとってあまりにも可笑しいものだったから。あと、

(…………………愛羅、なんか和寛に対して明るくなったなぁ。中学生の頃なんて一言、そして一言だけの、途切れ途切れの会話だったのに………)

 愛羅の小さな変化にも、感づいていた。

「…………梨々香?」

「ん?何?」

「そういえばさ、中学生の頃………………ここにのっぽちゃん、いなかったっけ?」

 いっつも愛羅と梨々香とその子の三人でいて、のっぽで眼鏡かけてた…………とぶつぶつと呟きながら、和寛はしばらく考え込み、それから「あ、あぁぁ!!そうだそうだ!」と叫んでポンと手を打った。

「あの、ほらさ。“中本咲乃”さん、だっけ」

「……………え?あぁ」

「咲乃が、どうかした?」

 梨々香に問い返された和寛は、不思議そうな顔をする愛羅と梨々香の顔を交互に見てから、人差し指を空中でぐるぐると回しながら、続けた。

「…………いんや、あんだけ仲良かったのに、一人だけどうしたんだろー、って思って、ね」