「………何笑ってんの、梨々香」

「いんや、愛羅には関係ないわ」

「何それぇ」

 そう眉尻を下げて言いながら愛羅も柔らかく微笑んでいる。
 和寛は前を向いたまま、笑みを溢していた。
 梨々香はというと、いよいよあはははは、あははははと笑い出す。
 でも愛羅はなぜ他の二人が笑っているのか全く分かっていないのだった。
 梨々香から見て、愛羅はあり得ないほど鈍ちんなのだ。

「……………そういえばさ、部活って、明日もあるの?」

「あるけど、明後日か明明後日でテスト週間に入っちゃうからね」

「え!?マジ!?えぇえ~……………!こっち来てこんなすぐにテストあるの!?」

 そう言って和寛は頭を抱える。梨々香はふいっと顔を背けて苦笑いである。

「……………そんなに思い詰めるほどの問題でもない気がするけどなぁ、私には」

「それは愛羅だからだよ…………」

「イヤミに聞こえるからやめて……………」

 聞いて、愛羅はキョトンとする。

 梨々香は愛羅の首を絞める振りをして、絞めずに頭を軽く叩いた。
「いひゃい」と洩らした愛羅に「もうちょっと他の人の気持ちを考えなさい」と梨々香は頬を膨らませる。

「うぅう~、脳細胞が死ぬぅ~」

「大丈夫、脳細胞が死んで馬鹿になっても愛羅は人並みになるだけだから」

 そう言って梨々香は胡乱に溜め息を吐く。
 愛羅も不満そうに「うぅぅう~………」と呻き声を洩らしているなか、和寛は一人、あはははっ、と陽気に笑っている。