「いやーっ、凄かった!楽しかった!!」

 愛羅と和寛、梨々香の三人は学校を出て、田圃道、帰路を進んでいた。

 空は染め抜いたようなほど綺麗な藍色、ちらちらと見え始めた星。
 西の方にはまだ太陽の面影が残っていて、そこから東に向かって見事なグラデーションができている。

「そんなに…………?っていうか見学演劇部だけで決めちゃって良かったの?」

「いいんだよいいんだよ!僕が良いなぁって思ったんだから!!」

 そう言って和寛は少し先に立って歩き、くるりと後ろを向いて頭の後ろで腕を組んだ。
 そんな少し意地を張って頬を膨らませている和寛の姿に、後ろから続く愛羅と梨々香は、お互いに顔を見合わせて少し笑った。
 それから和寛はジトッとした目付きで、笑っている梨々香を睨み付ける。

「…………どぉ~せ梨々香さんは」

「愛羅を『愛羅』って呼ぶなら私も梨々香で」

「え……………?あ、あぁ、うん。梨々香は、僕のことまだチビっ子で、重要なことでも軽い考えで決めてるんだー、なぁんて思ってるんでしょ」

 和寛はそう言って片方の眉を器用に上げた。
 そしてそんな和寛を一瞥すると、梨々香は「はあぁ」と深い溜め息を吐いてから鞄を持ち直し、静かに語り出す。

「そんなこと思ってないわよ。…………というか和寛はさ、中学の頃から何処かずれてた、って言うか変わってたよね。男の子の癖に可愛いものに目がなくて、動物が大好きで、声も高くて、背もちっさくて……………男女共々接するときはいっつも高テンションで、ピカピカずーっと光ってる太陽みたいな子だった」

「太陽か…………そうなれてると嬉しいけどね」

 そう言って和寛はくるりと前に向き直す。

 その和寛の呟きを耳にして、梨々香は一瞬キョトンとしてから、その言葉の意味を悟って愛羅を一瞥し、ふふっ、と笑い声を溢す。
 梨々香と和寛もまた、中学二年の頃同じクラスだったため、和寛の愛羅への感情を何となく感づいていたのだった。