___…………パチパチパチ。

「わあぁ、素晴らしかったです!!」

 和寛の声が聞こえる。

 部員の子が散り散りになって少し騒がしくなる。

 と、照明の子が気を効かせてくれたのか、観客席の照明も上がった。
 そこには、立ち上がって拍手をしている和寛の姿があった。

 そして座席の間を通り抜けて通路に出ると、舞台の方へとやって来て階段を上り、舞台へと上がってきた。

「逸樹先輩に、弥生先輩でしたっけ。僕、演劇部、入ってみようかな、と思えてきました」

「お~?そっかそっか!良かった良かった!!」

 逸樹が満面の笑みで、和寛の両手を取り、激しく振りながらそう言う。
 すると弥生がんー、と鼻にかかった声を出して、何かを真剣に考え始めた。

「あのさ、和寛くん………だっけ。ちょっと初めの方の浩史の役、体験してみない?いいよね、逸樹?」

「あぁ、そうだね。ちょっと待ってて、台本取ってくる」

「え、あ、え!?そ、そんなこと……………!」

 袖の控え室の方へ歩いていく逸樹を引き留めようとする和寛を「まぁまぁ」と弥生が宥める。
 愛羅はと言えば梨々香と並んで、お互いに顔を見合わせていた。

「………あのさぁ、私見てて分かるんだけど………逸樹さ、もし和寛くん入ってくれたら、次の春祭のときの準主役、和寛くんにあげたいと思ってるんだと思う」

「え!?しゅ、主役は」

「愛ちゃん」

 和寛は弥生に問いかけた格好でしばらく固まった。
 愛羅の頭の上にクエスチョンマークが二つほど浮かんだところで和寛がゆっくりと愛羅の方へと振り向いた。

「な、何、どうしたの和寛…………?」

「い、いや、何でもないや」

 そこで逸樹が台本を手にパタパタと戻ってきた。

 遠慮する和寛に逸樹は無理矢理台本を開いて持たせ「じゃあ菜摘がプリント落とすところから止めるまでー」と困惑顔の和寛を無視して叫んだ。

『…………………その日、菜摘は一人、廊下を歩いていた___』