「えーっと、今日は見学の子が来てるので、発声練習の後秋祭の時の演劇を彼に見せたいと思う」

『はーい』

 そう言って皆が広がって、弥生の声により発声練習が始まる。

 舞台の上が明るいのに対して、観客席が暗いため和寛の表情がよく分からない。
 身動ぎ一つしない黒い人影に愛羅は少し不安を感じていた。

 発声練習が終わると、皆がバラバラに散らばって舞台の準備を始めた。

 秋祭の話は学園ストーリーだったので、愛羅は燦ヶ丘高校の制服からリボンとスカートを取っ替えてから、ポニーテールにして多い髪の半分ほどを結ったゴムの上にぐるぐると巻いてアメピンで止めた。

 主役は愛羅、準主役が弥生と逸樹である。梨々香は友人A、そしてナレーションである。
 あまりの大役は避けているようで、でも声が良いことを逸樹にかわれてのことだった。

「じゃあ今から始めるよー、見ててねー」

 そう言って逸樹は暗い観客席に向かって手を振る。
「はぁ~い」という聞き覚えのある声が聞こえたところで舞台は暗転、梨々香の声が聞こえ始めた。

『____それは、とてもひょんなことから起こった、とても壮絶な話…………』

 話の概要は、次の通りである。