____キーンコーンカーンコーン♪

 九月下旬、晩夏の学校内に、六時限目の終業を告げるチャイムが鳴り響く。

「起立」とかけられた号令により立ち上がった彼女___佐々木愛羅は、努めて無表情にした眼差しを机に突き刺していた。
 それから、全員が立ち上がったところでかかった「ありがとうございました」という号令を復唱して軽く頭を下げる。
 わっ、と騒がしくなった教室内で、愛羅は一人、机の横にかけられた鞄を取って黙々と帰りの支度を調えにかかった。

「愛羅ちゃーん?」

「…………何?」

「なぁにぃ愛羅ちゃん、相も変わらずノリが悪いねぇ」

「………悪かったね」

 思いっきり話したくない雰囲気を醸しているにも関わらず、呑気なトーンで愛羅に話しかけてくるのは無駄に明るい性格の加藤夏哉である。
 夏哉は、少しチャラいが、意外と真面目な部分もある、そんな男子だ。
 しかし、話したくなさそうな雰囲気の愛羅に、わざわざ話しかけることもしなくて良いだろうとも思えるが、そんな風に愛羅に夏哉が話しかける光景は珍しいことではない。

 なにしろ愛羅はこの高校____燦ヶ丘高校内で、色々有名な少女だ。

 成績優秀、才色兼備。整った少し幼めの顔つきに、腰に届きそうなほど長い、さらさらとした漆黒の髪。

 全学年で噂されるほどの美少女。成績は常にテストで一桁、それも前半で学年トップクラス。

 歌も上手ければ絵も上手い、書道も上手い、そして____彼女が所属している演劇部で、一年生にして主役を張るほど高い演技力と、その物語も書くプロ並みの文章力と抜群の発想力、小道具をちょこちょこと作ったりする手先の器用さ。