「……どうしたの?弥一がこんなとこまで来るなんて」


私たちは西棟、3年の弥一は東棟。

弥一の教室からここまで来るには、わざわざ渡り廊下を通って階段を登らないといけない。


特別教室や図書室は基本的に南棟にまとまっているし……。たまたま用事があった、っていうの考えにくい。



「部活始まる前に時間できたから、芽唯に会いに来た」

「……そっか」


小さく返事をしてみるものの
全然、脳内は"そっか"なんかじゃない。


「今度ゆっくり……って、あれっきりだったろ?ちゃんと話したいなって」

「は、話すって何を?」

「……ここじゃなんだし、ちょっと場所変えよう。非常階段のとこで待ってるから」



なかなか首を縦に振らない私を不思議に思った弥一が「芽唯?」と1度優しく名前を呼んだ。


ズルい。
私が弥一を好きだって、分かった上でやってるの。

本当に本当に悔しいくらい、ズルいと思う。


「分かった」


下手くそな笑顔を貼り付けて返事をすれば
満足気に笑った弥一が非常階段へと消えていく。


あんなに話したいと思ってたのに
いざ話すチャンスが与えられたらビビってる。


それはきっと。
もう、あのころの私たちじゃないから。