長年使われた椅子がキーっと音を立てて、ヒヤリとした。


1番窓側、1番後。

今回の席替えのラッキーボーイ、かつ、うちのクラスの居眠り王子



「 馬淵くん… 」


誰かが閉め忘れた窓から桜を巻き込んで吹き込んだ風が、彼と私の髪を揺らした。


彼は整った顔を顰めて、また静かに寝息を立て始めた。


よく寝れるよ、本当に。

きっと彼はホームルームが終わったことにすら気がついていない。



…… 先生の名前なんてあとででいっか。


そう思ってもう一度席に着いた。


窓際2番目、1番後ろ。

彼を見つめる、とっておきの特等席。


腕の上に頭を乗せて、風にゆらされた彼の跳ねた髪の軌道を辿りながら



「 まーぶーちーくーん 」


小さく彼の名前を呟いて。


顔を顰めた彼の形の良い唇が紡いだ


「 ……マナ、」


女の人が
どんな人なのかを考えてみる。


馬淵くん、好きな人いたんだ。

寝言で呟いちゃうくらいに好きな人が。



彼女だったりして。


小さく痛んだ胸に気付かないふりをして、春風が誘うままに目を閉じた。