「心愛は俺と一緒にいた方が幸せになれる」
「どういうことだ」
「そのままの意味だ。なあ、心愛?」
彼女は黙って俯いた。
何が何だかさっぱりわからない。
彼女は智也には背かない。
それどころか、操られているかのように大人しくしている。

一体どっちの味方なんだ、心愛ちゃん。こいつを庇うのは、ただの同級生だから?それとも何か理由があってー
特別な関係、とか?いや、まさかそんなことはあるはずがないー
「確かに挑戦状、受け取ったぞ」
そう言って智也は、僕が色々と考えている隙に僕をがっしりと掴み、僕を突き飛ばした。
転ぶと思って思わず目を瞑ったが、
何の衝撃もない。

ーあれ?痛くない。

ゆっくり目を開けると、目を釣り上げるように敵意を剥き出しにした智也が立っていた。
「大丈夫ですか?博人さん」
彼女の柔らかな声で気付いた。
僕の背後から聞こえたその声に振り返ると、彼女が後ろから僕を抱きしめていた。
彼女の手は、僕のお腹に回されていた。
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
僕はお腹に回された彼女の手を、ぎゅっと握った。
「よかった…怪我は…」
「してないよ。ありがとう」
よかった、と彼女はほっ、と溜息をついた。
「そんな風に仲良くしていられるのも、今のうちだ」
智也は僕を嘲笑した。
「理由は、俺が心愛を奪うからだ」
不気味な程の智也の微笑みは、何か起こる前触れなのだろうか。
少し冷たい風に、身震いがする。
彼女の肩も、少し震えていた。
「冷えてきたね。帰ろうか」
彼女は『うん』と言う代わりに、小さく頷き僕の手をしっかりと握った。
彼女の手は冷えていて、少しだけ震えていた。