―バーンアウト。
燃え尽きてしまった心愛ちゃんは、博人の幸せを考え、
博人の元カノである遥香さんと博人の仲を取り持った。
それからというもの、心愛ちゃんは博人に会ってもいないし、連絡も絶っている。
思った以上に、心愛ちゃんの決断は固いようだ。
でも、心愛ちゃんは博人のことがまだ好きだということはわかった。

「じゃあさ、俺と付き合ってよ」
「えっ?」
「一人なんだろ?今」
「それはそうだけど…」
「俺のこと嫌いじゃなきゃ、俺と付き合ってほしい」
「やめて、そんな冗談」
「俺は冗談でこんなこと言わないよ。本気」
「嘘―」
次の瞬間、私はとんでもないシーンを見てしまった。
智也というその男が、心愛ちゃんを抱き締めている。
智也は心愛ちゃんを見つめていた。
心愛ちゃんは突然の出来事に抵抗することさえ忘れていた。
智也は我慢できなくなったのか、心愛ちゃんの唇を奪った。
「俺ら、お互い一人なんだからさ。それに俺はずっと、心愛が好きだった。
すごく。もちろん今も…好きだ」
再び智也が心愛ちゃんを強く抱き締めた。
「智也…やめて…苦しい」
「離すもんか。彼氏になんか、ぜってー渡さない」
「やめて、智也。ねえってば…」
「抵抗できるなら、してみな。できないだろ?」
なんて卑怯な男だ。純粋な心愛ちゃんを汚したら、博人の前に私が許さない。
そう思いながら、私はカメラを片手に夢中でシャッターを切った。
「離してよ…」
心愛ちゃんは必死で抵抗するも、男の力には勝てなかった。
「心愛、俺のことだけ考えてくれよ」
「無理よ、そんなこと」
「まだ好きなんだろ、そいつのこと」
「好きよ、好き」
「俺を?」
「違う。彼…」
心愛ちゃんは目を伏せた。
「…好きなんじゃねえか、そんなに」
「好き。」
「じゃあ、諦めんなよ」
「えっ?智也?」
「まあ、すっきりするまで愚痴ってけよ。聞いてやるから」
「ありがとう、智也」

心愛ちゃんは智也に笑顔を向けた。
その笑顔がきっと、智也を勘違いさせ本気にさせるのだろうな。
「でも、俺は諦めないから」
「えっ?智也?」
心愛ちゃんは動揺していた。もちろん、私も。
「誰が諦めると言った?俺は本気だから。覚えといてね。
欲しいものは絶対に手に入れる主義だから、覚悟しとけよ」
智也は心愛ちゃんの唇を強く強く、何度も求めた。
心愛ちゃんは嫌がっていたが、そんなことはおかまいなしで智也は心愛ちゃんの唇を吸っていた。
「や、めて…お、ねがい…」
心愛ちゃんは涙目になりながら智也を見た。
「…そんな目で見るなよ。…仕方ねえな。今日はこのくらいにしといてやるよ。
でも、これだけは忘れるな。俺は心愛に本気、だからな」
智也は心愛ちゃんを抱き締め、こう言った。
「俺は絶対、そいつに勝つ自信がある。心愛を振り向かせる自信しかない」
智也は静かに心愛ちゃんを離し、暗闇の中へ消えていった。

私は我慢できずに、思わず心愛ちゃんの名を呼んだ。
「心愛ちゃん!」
「あ…ほのちゃん…」
心愛ちゃんは怯えたように言った。
「大丈夫?」
「怖かったよ、ほのちゃん。怖かったよ…」
心愛ちゃんはその場にがくりと膝をついた。
「もう大丈夫。私がいるから」
私は心愛ちゃんを優しく抱き締め、背中を擦った。
あんな卑怯で最低な変態男、許せない。
絶対に、正義の鉄槌を下してやる。
この時の私はまだ知らなかった。
心愛ちゃんを愛するもう一人の男、智也が
とてつもなく手強い博人の恋敵であるということに。