そう思いつつも念のため私は、車を公園から少し離れた場所へ止め、
公園の木の陰に隠れた。公園の入り口付近の植え込みの近くに大きな木があり、
ちょうど人が一人隠れることができるほど、幹は太かった。
しゃがめば、人が隠れているということはまず、ばれない。
それほど、大きな木。

心愛ちゃんは黙って誰かを待っている。
だんだんと暗くなってきた。
しばらくすると、一人の影が心愛ちゃんに近づいてきた。
その影は、心愛ちゃんを後ろから抱き締めた。

―嘘だ。今のは、悪夢だ。

心愛ちゃんは、一人の男に抱き締められていた。
心愛ちゃんは驚いていたがすぐに笑顔になった。
まさか、まさか心愛ちゃん、浮気してるんじゃー
「もう、やめてよ、智也」
心愛ちゃんは男の手を振り払い離れた。
あ~、よかった…。
心愛ちゃんが浮気なんてするはずないもんね。
疑った自分がバカみたい。
「いいだろ?別に」
「よくない。そんなにベタベタしないで。付き合ってるわけじゃないんだから」
「冷たいな」
「もう、そんなことより」
「相談したいことがある、だろ?」
「うん」
「彼氏とうまくいってないのかよ」
「彼とは…もう会わないって決めたの。だから、もう私…一人」
「わけわかんねえよ。説明してくんないとさあ」
「うん。あのね」
心愛ちゃんは、博人と会わなくなるまでの経緯を話した。
前々から心愛ちゃんは、博人と自分が釣り合わないということに悩んでいたらしい。
博人が本当に自分のことを愛しているのか、不安で仕方がなかったことも
博人を信じられない自分に嫌気がさしたことも、
博人の心も体も満たすことができない心苦しさも、全部。
博人に見合う女性になろうと努力はしていたものの、なかなか彼女らしいこともできず
体調が不安定な自分を文句も言わず看病してくれる博人に申し訳ない、と。
博人が健康で美人で色気があって明るい女性が好みだと知って、
心愛ちゃんは少しでもその女性像に近づこうとしたものの、疲れてしまい燃え尽きた。