「まあ、奇妙な共同生活が始まったのは、不本意ではあったけど」
「そうだよね。急に出てきてびっくりさせたよね」
「うん、まあ…でも楽しむしかないよね、この状況。
どうやったって、変えようがないんだし」
「心愛ちゃんって、強いよね。前向きっていうか…」
「そうかな?」
「うん、感心する」
魁利は私に微笑んだ。

「感心なんてしなくていいわよ、こんなやつに」
「こら!楊香!」
魁利はすっくと立ち上がり、楊香の肩を掴んだ。
楊香の近くには彼がいた。
「ていうか、いきなり消えたからどこ行ったのかと思ったし」
「ごめんね、楊香」
私が楊香に笑いかけると、彼には見えない角度で鬼の形相を見せる。
楊香の前世は、鬼だったんじゃないかな。
「心愛ちゃん!ああ、よかった…急にいなくなったからどうしたのかと…」
「ごめん」
彼は、私のことを探していたらしい。
「良かった、無事で」
「うん」
彼のこういう優しいところが好きだけど、
迷惑をかけていないかという思いがいつも私の後をついて回る。
こんな私なんかといても、幸せになれる保証なんてどこにもないのに、
彼は私とずっと一緒にいてくれる。申し訳ない。
私は水辺から一歩も動かず、視線だけを川の水に戻した。
こんな綺麗な水のように、私も澄んだ心でいたい。
曇りのない鏡になりたい。

視線を感じて横を見ると、楊香の後ろに立っていた彼がしゃがみこんでいた。
いつの間に移動したのだろう。全く気付かなかった。
「心愛ちゃん、どうしたの」
黙って水面を見る私を優しい目で見つめる彼に、私は何も言えなかった。
「心愛ちゃん、歩いてみようか。水辺」
私は、首を横に振った。
「ほら、行こう」
彼はしゃがみこむ私の腕を引っ張り、私を立たせた。
「いいよ、そんな」
「いいから、行こう」
渋る私を見てもなお、彼は強引に私の手をしっかりと握り歩きだした。
「嫌ならいいのよ?私が博人の相手するんだから」
「楊香、悪いけど心愛ちゃんと二人きりにしてくれない?」
「いやだ!」
「はいはい、邪魔しないの」
魁利が駄々をこねる楊香を引っ張って彼から引き離したどころか、
先ほどあった遊歩道を昇っていった。
「魁利…」
魁利は、私と彼を見てウインクをして去っていった。

( ありがとう、魁利 )
私は魁利を見て頷き、心の中で呟いた。
「さて、話があるんだけどさ」
「話って?」
「うん」
彼は私の手に痛いほどの力を込めて真剣な顔で口を開いた。