希望の夢路

赤髪の姉妹が、再び目の前に現れた。
「久しぶりねえ、心愛さーん?」
楊香がわざとらしく言いながら私の顔を覗き込んだ。
「楊香、やめなさい」
魁利は、こつん、と楊香の頭を叩いた。
「いったーい!叩かなくてもいいじゃない」
楊香は頭を押さえながら、口を尖らせた。
「たいした痛くないでしょ。大袈裟な」
魁利は楊香を見下ろした。

「二人とも、久しぶり」
私がそう言うと、魁利は喜んで駆け寄ってきた。
一方の楊香は黙って私と魁利を見て腕組みをしていたが、ゆっくりと私に近寄ってきた。
「久しぶり、心愛ちゃ~ん!」
魁利はよほど私に会いたかったのか、私に抱きついて頬をすり寄せてきた。
「魁利、ちょっと…」
嬉しいけれど、なんだかくすぐったい。
「あっ、ごめん!」
魁利は私から顔を離した。
魁利の笑顔を見ていると、心が和む。
思わず笑うと、楊香が冷ややかな目で私を見ていた。

「なに、感動の再会みたいな感じになってるけど?気持ち悪」
「気持ち悪、って…」
楊香の口の悪さには、いつまでたっても慣れない気がする。
「だって、感動の再会じゃない!」
魁利の興奮はなかなか覚めないようだ。
「ありがとう、魁利」
魁利は相変わらず、優しい。それだけが何よりの救いだった。
そしてなりふり構わず暴言を吐きまくる腹黒の少女、楊香は向かうところ敵なし。
私の恐怖の種はこの少女だ。

「ねえねえ、心愛。このイケメン誰?」
楊香がイケメンに目がないということを、私はすっかり忘れてしまっていた。
「えっとね、」
私の代わりに彼が言った。
「僕は、心愛ちゃんの彼氏だよ」
「はあー!?」
楊香の怒りのこもった声に二テンポくらい遅れて、
「へえー!」
という魁利の声も聞こえた。
「カレシデスト~!!」
楊香、怖いよ。怖い。
その鬼の形相、どうにかしてやめて。
しかもなんだ、その言い方は。
ナルシスト、じゃないんだからさ。
片言の言葉を話す外国人のような発音だったけど…。
彼は初めて見るこの姉妹に圧倒されて、言葉も出ない様子だった。


「君たちは、誰なんだ?」
彼が、私たちの目の前にいる二人の女性を見た。
「私たちは、心愛ちゃんと一心同体なの」
「一心同体って。気持ち悪っ」
二人の女性は見た目こそ似ているものの、性格は全く違う。
それがかえって、たちが悪いと思ってしまうのは、きっと私だけ。
「私は、魁利。この子は、楊香。」
楊香よりも少し背の高い赤髪ロングの魁利が、楊香の手を握って言った。
「魁利と…楊香」
彼は二人の名前を口にした。
「うん、楊香は、私の妹。年は少し離れてるけど」
「そうなんだ…」
彼は二人を見ながら笑った。
「二人とも、可愛いな」
彼の言葉に魁利は俯きながら照れていたが、楊香はそうではなかった。

「そう?」
「うん、可愛い」
楊香は、魁利に負けず劣らず美しかった。
年は恐らく、十代後半と言ったところだろうか。
「ふふ、まあ、そうね」
楊香は自信満々に彼を上目遣いで挑発した。
まあ、そうね、って…そこは普通、否定すると思うんだけど…。
この美人姉妹に私は二度と会いたくなかった。
最近は全く会うことがなかったから、良かったと思っていたのに。

「それで…君たちはここの近くに住んでるの?」
二人に微笑みかけた彼に嫌気がさす。
すぐそうやって、綺麗な人に鼻の下を伸ばすんだから。
かっこいいけど、モテ男って嫌だな。嫌になってきた。
男という生き物の性は知っているつもりでいたけど、なんか、複雑。
「ううん。ここが、私達と心愛ちゃんとの、秘密の場所」
「姉ちゃん、秘密の場所とか、かっこいいこと言わないでよ。
それを言うなら、待ち合わせ場所でしょ」
「そうともいうけど」
魁利は上品に微笑んだ。
しかし、楊香は怖い。
私を睨むその顔は、まるで鬼。