希望の夢路

「もし、自分にほんの少ししか時間がないと分かっていたら、二人とも好きなことをして過ごしたいって言ったよね?」
うん、と魁利と楊香が頷いた。
「もし知らされなかったとしたら、当然のことだけど自分に与えられたごく短い時間だと気づかないわけで」
「うん、そうだよね」
「当たり前じゃん。で?」
「いつも通りのありふれた時間だと感じて、危機感もなくだらだら過ごしてしまうかもしれない」
「んー、まあ、確かに」
楊香が言った。
「命の灯火がいつ消えるかも分からない。もしかしたら、明日になるかもって時、何も知らずにいたら…」
「なんか、怖いね。何も知らないって」
「でしょ?魁利」
「うん」
「もし自分に残された時間が僅かだと知ったら、それこそショックだろうけど、それまで何をすればいいか、何をしたらいいか考えられると思うの。最期まで好きなことをできたらどんなにいいだろうって」
「なるほどね。なんも知らなかったら、何の準備も出来てないわけだから、どういう風に人生を送るかっていう意味での質が大事になってくるってわけね」
「えー?わかんない。私はわかんない。分かるようでわかんないから、わかんない!」
なんだ、それは。
ーつまり、わからないんだな。
まだまだ子供なんだなあ。
そのうち分かるようになるよ、楊香。

「でもさ、家族にとっては教えたくない事実もあるんじゃないの?」
楊香は鋭い質問をする時がある。
「まあ、それはそうかもしれないけど」
「事実を言わなかったらどうなる?」
私は楊香に言った。
「どうなる?って言われても。知らない。というか、わかんないし。当事者じゃない限り」
確かにそうだ。
私だって難病にならなければ、
こんなに辛くて大変だということは
わからなかった。
自分がそういう目に遭わないと、
人間はわからないんだよなあ。
「確かにそうだけど」
そのあとの言葉は、私の口から出ることは無かった。なんと言えばいいのか、わからなかった。
結局人間は、自分のことにしか興味がなくて自分のことだけで精一杯なんだなと、思ったりもした。
そんな希薄な関係の世の中。
なんだか、切ないなと思った瞬間だった。