希望の夢路

それにしても、まさか楊香の口から
死ぬなら、という言葉が出てくるとは思わなかった。むしろ、死ぬという概念は楊香にはないものだとばかり思っていた。
だってほら、
「ま、そんな簡単に死ぬつもりないけど」
そうやって悪魔の笑みとしか捉えようがないほどの、不気味な黒く恐ろしい微笑みを私に向けた。
そして私にこう告げた。
「だって私、向かうところ敵なし、だしぃ?つまり、無敵なわけ」
にやりと笑い口角を上げた楊香に、私は怯んだ。そう、いつものパターン。

「よ、楊香は、何をしたい?命の期限が迫ってるとわかったら」
「うーん、そうねえ」
楊香は、何をしたいというのだろう。
魁利と遊びたい、とかそういうことかな。
私がわくわくしながら楊香の言葉を待っていると、たった一言、
「博人といちゃつくの!デートするっ!」
と笑顔で語った。
「……」
なるほどね、ひろくんと一緒にいたいのね。ひろくんのこと大好きだもんね。私を目の敵にしているのは前々から知っていたけど、すっかり忘れていた。楊香はひろくんが大好きなんだった。
私は静かに溜息をついた。
「他にしたいことは?」
魁利が言った。
「他に?うーん、…旅行と、たくさん食べること!あとはねー、」
「あとは?」
魁利は目を瞬かせた。
「心愛を弄ること」
「…」
可愛いけど、この子は悪魔だ。
私は確信した。
見た目は、小悪魔な女性に見えるけど
中身ーいや、本性は違って私をとことん困らせて楽しんでいる悪魔。
全く、困った子だなあ。
しかも彼の前では、ころっと態度を変えていい子を演じるんだから。
こういう、ころころ態度を変える人は大嫌いなタイプ。なんだけどー
「あと、ショッピングしたいな!買い物!服たくさん買いたい!可愛い服ね」
私は、この子のお守りをいつもしなければならない。疲れる。気を遣う。
ときどき、この子のお守りを放棄したくなる。けれど、魁利はそんな私の気持ちに気づく様子がない。
誰か、代わって…。

「例えばどんな服?」
私がそう聞くと、楊香はきらきらした目でこちらを見た。
「あのねあのねっ!フリフリの服もいいけど、綺麗な色で、可愛いのがいいの!ワンピースも好きだし」
「いいよね、ワンピース」
「そ!そういう点では心愛と気が合いそうね」
「う、うん…」
それじゃあ、まるで私と楊香が全く気が合わないみたいじゃないか。
いや、まあ確かにそうなんだけどね。
「それでね、ミニスカート履くのっ。トップスも、セクシーな服で」
ん!ミニスカート?セクシーな服?
もしかして、そういうのが好み?
確かに、楊香には似合う。
少女というより色気たっぷりの女性、って感じだからなあ、楊香は。
「やっぱ、デコルテよね〜」
「…デコルテ」
「ま、心愛には似合わないけど」
「うん、そうね。似合わない」
「なにぶすっとしてんのよ。本当のこと言っただけじゃない」
「うん、そうだね」
デコルテって確か、肩を出してるー
いや、肩が出るトップスのことだよね?かなり色気のあるファッションを好むんだなあ、楊香は。
まあ、魁利もお洒落だし姉妹揃って
お洒落好きなのね。
楊香はお洒落番長、みたいな感じ?
それとはまた違うか。

「それを着てね、博人に会うの」
嫌な予感がする。
「博人をメロメロにさせるんだから」
ふっふっふ、と私を見ながら笑う楊香。
予感は的中した。