「私達と二年目だけど、どう思ってる?心愛」
「そうだねえ」
私は窓の外を見た。外はすでに真っ暗だ。
「今のところ症状は落ち着いてるけど、油断はできないと思ってる」
魁利は私のベッドに潜り込み、私の隣を既に陣取っていた。
「大変だったよ、そりゃあ。大変の一言じゃ言い表せないくらい、しんどかった」
私は枕に頭を預けた。隣の魁利が、私の真似をして天井を見る。
「最初はさ、まさか難病だなんて思いもしなかった。意外と軽く考えてたし」
私は目を閉じた。
「難病だなんてさ、先生言ってくれなかったし。
でも、入院してから知ったんだよね。難病だって」
「はっきり、てか、すぐ言ってくれたら良かったのにね」
「魁利、それはそれでショック大きいから」
「あ、そっか。そうだよね…」
「でも、はっきり言われて良かったと思う。知らないで人生を送るよりは、ましかな」
「知らない方がいいってこともあるんじゃないの」
「あら、楊香。大人なこと言うね」
私は目を開けて言った。
「ベ、別に…!そんなんじゃないし」
楊香、照れているな。なんとわかりやすい態度。
その証拠に、魁利がぷぷぷ、と笑っている。
「確かに、そういう場合もあるかもしれない。でも、時と場合によるんじゃない?
全部が全部、それでいいとは限らない」
「そうかな?」
魁利は首を捻った。
「重大な病であればあるほど、私はちゃんと事実(ほんとうのこと)を伝えるべきだと思うの」
「ふーん」
楊香は興味なさげに私のベッドに寝転んだ。
「ちょっと、足元に寝転がらないで」
「いいでしょ、別に。で?」
「…うん。知らないまま人生を送るのと知ったうえで人生を送るのとでは、
見える世界が違ってくると思うの。
どう過ごしていくかによって人生は全く違ったものになる」
「わかるような気もする」
魁利が言った。
「はーい反対反対!だってさ、事実を知ってどうなるのよ?
変えられない事実の方が世の中、多いんじゃないの?
知らないでいた方が、苦しみは軽くて済むんじゃない?」
楊香が片手を上げて抗議した。
「確かにそうかもね。でも、苦しみのレベルが違ってくるし、
人生の質にも関わってくる大事なことだと思うんだよね」
「苦しみのレベル?」
楊香が急に起き上がった。
「人生の質?」
魁利は私をじっと見ている。
「そ。苦しみのレベルと人生の質」
「どーいうこと?教えてよ」
二人の視線が一気に私に集まった。
「例えば」
何年も前のことを思い出すように、私は目を閉じた。
今も胸に響き渡る、当時の私にとっても今の私にとっても衝撃的な、あの言葉を。

