私は難病で、彼と一緒にいるべきじゃないー
そう考えていたら、私は彼に強く抱き締められていた。
彼の逞しい腕に抱かれ、私の鼓動は高鳴っていた。
「絶対に、離さないから」
彼は私を射抜くような目で見ていた。
「心愛ちゃん、何があったのかちゃんと僕に言って」
彼はしっかりと私の目を見て言った。
「一緒に、乗り越える覚悟はできてる」
「そんな…覚悟だなんて」
「本当だよ」
「無理です、そんなの」

―覚悟はできてる、なんて嘘。覚悟なんてあるわけない。
私の背負う荷物を受けいれるなんてこと、彼にできるはずがない。
「えっ?」
「博人さんは、優しいからそんなこと言ってくださるの。
博人さんはきっと、私のことを嫌いになる。こんな私のことなんか…」
「嫌いになるわけないじゃないか。僕は心愛ちゃんが大好きなんだよ?
もしかして、不安…?」
「不安です」
「何が不安?言ってごらん。悪いところは直すから、だから」
「もし、私が難病になったって言ったら、博人さんはどうしますか?」
「えっ、どうしたんだよ、急に」
「どうしますか?」
「えっ…それは…」
彼は、言葉に詰まった。

こうなるだろうな、と予測していたものの、悲しい。
「私と別れて、他の健康で素敵な女と幸せな日々を過ごしますか?
それとも、私と別れずにずっとそばにいてくださいますか?」
「それは…」
涙が零れそうになった。私は、悲しくて目を伏せた。
即答できない彼が、眉間に皺を寄せている。
恐らく彼は、私が難病だと知ったら距離を置いて、いずれは私のことを忘れて他の女とー
「ごめんなさい、今の、忘れてください」
私は泣きそうになるのを堪え、彼に笑顔を見せた。
これ以上、彼と一緒にいると涙が零れ落ちそうになる。
彼に迷惑もかけちゃうし、そろそろ帰らなきゃ。

「博人さん」
「ん?」
「もう、帰りますね」
「帰るって…もうこんなに、遅い時間だぞ」
「大丈夫です、一人でも…」
「帰さない」
「大丈夫です。腹痛も治まって、ほら!もうこんなに元気!」
私は笑った。
「…帰さないって言ってるだろ」
彼は、私の肩をがっしりと掴み言った。
「博人さん…?」
彼の様子が、おかしい。どうしたのだろう。
「帰さない…離さない」
「博人さん、あの…?」
「心配だし…僕が心愛ちゃんとずっと一緒にいたい」
嬉しいけど、彼に迷惑をかけたくないーそう思っていると、
「ねえ、」
「?」
私は首を傾げた。
「心愛ちゃんがどんなに重いものを背負っていても、決して僕の重荷にはならないから。
それどころか、心愛ちゃんの背負っている重い荷物を受け止めて背負うから。
一人より二人の方が、見える世界は違うだろ?
一人で背負わないで、一緒に乗り越えていこう。
心愛ちゃんは何を抱えているかわからないけど、
心愛ちゃんが僕に打ち明けてくれるまで、僕は待つから。」
彼の言葉に、私の目からは大粒の涙が零れていた。
「私…」
彼の大きな手が、私の涙を拭う。
「言えるときになったら、でいい。無理しないで、いいから」
彼の優しさが、身に染みる。涙が、止まらない。
彼は何も聞かずに、黙って私を強く抱き締めた。
私も、彼に応えるように彼を抱き締め返した。