彼女は僕の手を引き離し、僕から離れた。
―やっぱり、離れたか。
僕の意地悪が、かえって彼女を遠ざける。
「…博人さんの意地悪」
彼女がそう言った瞬間、僕の胸に柔らかな温もりが飛び込んできた。
もしかして、この感触はー
「博人さん…」
彼女は、僕の胸に顔をすり寄せていた。
彼女は僕に抱きついている。

嘘、だろ? 彼女が僕に、抱きついている?

信じられなかった。
彼女が、なかなか一歩を踏み出せずにいた彼女が、一歩を踏み出した。
「博人さん…?」
彼女が、僕の顔を覗き込んだ。
「嫌、でしたか…?」
不安げな彼女の顔を見つめる。
「ごめんなさい、急にこんなこと…。嫌、ですよね」
彼女は目を伏せ、僕から離れようとした。

―そんなことさせない。僕から離れるなんて許さない。

「嫌だなんて僕は一言も言ってないよ」
僕は彼女を強く抱き締めた。
「嬉しいよ、心愛ちゃん。やっと…甘えてくれたね」
「ごめんなさい、私…上手く甘えられなくて…」
「いいんだよ。こうして甘えてくれたから…僕は嬉しい」
「博人さん…」
「心愛ちゃん…」
「ひ、ろと、さん…」
彼女の様子が、どこかおかしい。
「心愛ちゃん…?」
「ひ、ろとさん…く、るし…」
「ん?ああ、ごめん!」
僕は、彼女を強く抱きしめていたことをすっかり忘れていた。
思っていた以上に強く、抱き締めていたようだ。